『後狩詞記』 について
明治42年、柳田國男氏が民俗学関係では初めての書となる「後狩詞記」を著した。これが日本民俗学の最初の出版物であり、しかも、その内容の全てが椎葉村の狩猟民俗に関して占められていた。
出版の前年、当時、法制局参事官であった柳田氏は宮崎県椎葉村を訪れ、当時の中瀬淳村長と5日間村内を巡り猪鹿の狩猟習俗などを調査。さらに椎葉徳蔵村会議員の家で「狩之巻」を発見した。同書はその時の記録を書き綴ったもので、伝聞資料と「狩之巻」の文書紹介の2部構成からなっている。
細かな内容は「序」「土地の名目」「狩ことば」「狩の作法」「いろいろの口伝」「附録 狩之巻」からなる。
書名は室町期の「狩詞記」に因み名付けたことが序文から読み取ることができる。前半部は狩りの習俗を辞典的に書き綴っており、狩猟民俗の資料としての価値はよく知られたところである。ところが、焼畑の語彙も書き留めているほか、狩猟に伴う獲物の所有権争いなどの裁判例も記されており、近代山村の生活誌とも言うべき資料集としても見直されるべきであろう。